レコード棚から
サニーデイのアルバムの作業を終わらせなくてはいけない。
去年一年をかけてゆっくりとつくってきたアルバムだったが、もう来週マスタリングを迎える。
でもずっと作業し続けていたくて、スタジオに入ってはコンピュータを立ち上げ、セッションを開く。
でも、もうやるべきことは日々少なくなって、もうなにも手を付けずに、そのセッションを閉じることも多くなった。
完成してしまったのだと思う。
自分のスタジオで、ひとり、だれにも急かされずに音をつくってると、いつまでたっても終わりがやってこない。
頭のなかのプールでずっと泳いでるような気分。
とは言え、今夜はマスタリングに持って行く最後のマスターを作らなくては。
最終作業に向かうのがどうしても名残りおしくて、一枚だけレコードを聴こうと思う。
ぼくのこころをすっきりと無に、雲ひとつない空のようにしてくれる音楽を。
こんなときにぴったりなレコードをぼくは知っている。
ジョアン・ジルベルト『三月の水』
レコードに針を落とす。
やわらかくも淡々としたヴィオラゥンのリズム、そこに硬水のようなジョアンの声がゆっくりと流れはじめる。
なんにもにない空にひとりぽつんと浮かんでぼくは、ひとつの終わりを待つ。