無題

渡辺克巳という写真家がいる。
正確には「いた」だ。2005年に故人となった。

彼は「新宿の流しの写真家」と呼ばれた。
職を転々としながらも、街に立ち、路上にはいつくばりながら、本当の意味での市井の人々を撮り続けた。
高度成長期の影、光のあたらない裏通りに住む人たち。ヤクザ、ゲイボーイ、風俗嬢、そして老人たち。ぼくらが日常触れ合うことの少ないそんな人たち。
ぼくらは彼ら彼女らのことをあまりよく知らない。積極的に目を合わそうともしないのだ。
今、渡辺克巳のファインダーにおさまった彼らを見てみる。
そのまなざしは子供のようにキラキラと輝いている。
モノクロ写真から、「生きる」人たちの、ただただポジティブなエネルギーがあふれてくる。
ぼくはそれらの写真を見て、元気をもらっている。
とにかく「生きる」のだと。

自身の集大成とも言える写真集『新宿1965-97』の出版に際して、彼はこんな言葉を、ふたりの息子のために残している。


 息子 春吉君、
 世の中に悪い人はいません。
 悲しい人がいるだけです。
 春吉が大きくなってから考えてください。

 息子 次郎君、
 父ちゃんが32年かかって作った本です。
 困難がきたとき開けてみると何かヒントがあるかもしれないよ。



ぼくも何かのヒントをもらおうと、本を開けるひとり。
機会があったら、ぜひ触れてほしいと思う写真家だ。

http://www.watarium.co.jp/exhibition/0802watanabe/index.html

    *    *    *    *    *    *    *    *


11日の日記について。

ぼくは犯罪者を擁護しようとしているわけでも、
日本の法律を否定しようとしているのでも、
ドラッグを肯定しているわけでもありません。

ぼくはノリピーや押尾学のことを、単なるひまつぶしと興味本位で笑いながら傍観してる自分に、居心地が悪かっただけです。


悪いことはしたらダメです。
それだけです。

では、悪いことってなんでしょう。


殺人は悪いことだと思います。
では戦争は?
戦争では殺人が起こりますが、それは法によって守られていたりします。

でも、それがいかなる法律で守られていようとも、戦争は絶対に悪いことだと信じています。


明日は終戦記念日で、戦争で亡くなった人たちを追悼し、平和を祈る日です。
ぼくらもそうしましょう。


ぼくは自分の意見を押しつけようとしているわけではありません。
というか、毎日いろんなことが解らないまま。考えはいっこうにまとまりません。
子供をもつ親であろうとなかろうと、それが本当のところです。
そういうことを、いろんなかたちで表現していきたい。


平和、愛。
善と悪。

ぼくらがあまりにもたやすく口にするそんなことたちについて、もう少し考えてみたいのです。