本になった恋
もしあなたに大切な人がいて、ひょっとしたら自分のことよりもその人のことの方が大事かも、なんてちょっとでも思うことがあったら、ぜひ読んでほしい本があります。
川崎フーフ・著『がんフーフー日記』。
簡潔に言うと、こんなふうな本です。
ある若い(といってもぼくと同年齢だ)夫婦が、結婚をし、すぐ妊娠をしたのだけど、同時に奥さんが癌であることが判明する。
夫婦は子供を早期出産し、癌を克服していく道を、奥さんとダンナさんそして小さな赤ちゃんといっしょに歩き始める。
ふたりはその過程を、ブログに残すことにする。
だから、この本にあるのはそのブログにアップされたドキュメンタリーのようにも見える日記だ。
結局、奥さんは亡くなってしまう。
現実はブログというメディアにおいても、ちっとも遠慮はしてくれないのだ。
しかし、そこに至る日々のなか記録された、ブログならではのユル〜い心の旅に、ぼくは恋することの軽やかさと、切なさを知る。
どんな恋愛小説も描くことのできない、本当の恋の香りがある。
まちがいなく、宇宙でもっとも明るく素敵なエネルギー。
死が常に視界にちらつきながらもここにいる新婚さんは、泣いたり笑ったりして、とっても素敵なカップルだ。
そして、恋することは、得ることと失うことが同時に化学変化を繰り返し続けることでもあるから、ぼくらにだってこんな瞬間はかならず訪れるのだ。
ああ、どうしよう。
このフーフのダンナこと、清水浩司くんはぼくのともだちだ。
東京に出てきて少したった頃に知り合った。
彼は当時バァフアウトという雑誌で働いていて、取材で会ったのだった。
同い年ということもあって、すぐに意気投合し、いくつかの大切な風景を共に過ごした。
サニーデイに関してのいくつかの忘れられないルポも、彼が作ってくれた。
お互いの仕事の環境の変化もあって、ここ数年はあまり接する機会がなくなっていたが、サニーデイが再結成する折には、オフィシャルサイトのインタビューを彼にお願いした。
メンバー一同、彼の顔しか思い浮かばなかった。
彼はそのとき、ちょっと考えて快諾してくれた。
思えばもうがんフーフー日記は始まっていたのだ。
何度かに分けて食事しながら行ったロングインタビューの際も、彼はそんなことは言わなかった。
ただ、子どもが生まれたと嬉しそうに言っていた。そして写真を見せてくれた。
ぼくは、おめでとう、だとか、良かったねえ、などとわかったようなことを言ったと思う。
ぼくはなにもわかっていなかったのに。
大事なことは、いつだってあとになってわかる。
そのときには、たいてい、遅すぎるのだ。
だから、今日を生きよう。
いつだって。
もしあなたに大切な人がいて、ひょっとしたら自分のことよりもその人のことの方が大事かも、なんてちょっとでも思うことがあったら、ぜひこの本を手に取ってみてください。
彼のこの本の出版記念のようなイベントを行います。
7月5日火曜日。表参道のCAYで、サニーデイ・サービスとして演奏します。