宇宙の中心でギターを鳴らす

七月某日。ギターを抱えてエンケンさんのお宅へ行く。
今週末のライブの打ち合わせのためである。
エンケンさんのお宅を訪ねるのは、もう五年以上ぶり。
ぼくはディノ・バレンテのLPをおみやげに持って行った。
久々に会ったエンケンさんは無精ヒゲをたくわえて、ずいぶん精悍な感じである。
エンケンさんは「よく来てくれたね」と言って、ぼくを招き入れてくれる。
このあたたかさを、エンケンさんと会うときにぼくはいつも感じる。
そう、エンケン宇宙の入り口はいつもあたたかくふわっとひらいている。
ビールを飲んだり西瓜を食べたりしながらのギターの練習は楽しい。
ぼくは、絵画教室に通ってた小学生時代の夏休みを思い出す。
こんなふうな、ドキドキとあたたかい扉の中へ足を踏み入れる瞬間が好きだ。
エンケンさんの部屋はブラックホールの内側のように、この世界の秘密の鍵のようなものが不規則に、いや規則的に、漂っている。
ぼくもそのひとつなのだろう。
この世田谷に開いた宇宙空間でぼくは枝豆を食っている。
三十五年歌ってきたエンケンさんに、ぼくは憧れている。
これにはかなり畏怖の念も混ざっていて。
なので、エンケンさんと会うときは、なにかエンケンさんに近づく秘訣を持って帰りたいと思う。
エンケンさんのようにずっと変わらず歌い続けるにはどうすればいいのですか、というようなことを尋ねてみる。
そうするとエンケンさんは、曽我部くんの声はにゃんにゃんした感じでいつも可愛いと言う。
そのにゃんにゃんしたふにゃーっとした感じがあるうちは大丈夫だと。
で、「きみのこと、好きだよ」って気持ちでいつも歌えばいいんだよ、と言ってくれた。
「よけいなこと考えちゃ、ダメだよ」
ぼくはまたひとつ純音楽の扉を開けたのだった。
それでぼくはそのことを日記に書いておこうと思ったのである。