日記

 下北沢のonsaが明日で閉店する。
 ひとつのスペースを真ん中で区切って、レコード・ショップとカフェが半分ずつというお店。彼氏がレコードを見てるあいだ、彼女は隣でお茶をしながら待っていられるという、つまりはある種の理想をかなえたお店。
 下北沢のど真ん中にあるのに、すごく落ち着く空間だったから、サニーデイのころから取材とかにも使わせてもらっていた。日本茶やお昼ご飯がとてもおいしくて、ぼくは大好きだった。若いきれいなお姉さんたちが作ってるわりには、粗食で健康的な、田舎のおばあちゃんが作ってくれるような、なつかしくもお洒落な味。
 ぼくに子どもができてからは、子どもを連れて、思い出したように、ここにお昼を食べに来ていた。

 そして昨日の午後、突然妻がonsaのご飯を食べたいと言うので来てみると、「閉店します」というお知らせ。最後に間に合ったから良かったけど、ぼくはご飯を食べながら、ちょっとぼーっとしてしまった。お茶することができるのは今日で最後、明日はお店でフリーマーケットをやって、カップとかそのほかのいろんなものを整理するそうだ。レコード・ショップのほうは独立して恵比寿に移転するという。素敵な最後の一日になればいいと思う。
 最初に言ったとおり、onsaはある理想をかなえたお店だった。だからぼくは「残念」とは言わずに、その理想が5年間も続いたことにでっかい拍手を送りたい。

 昨日、onsaで食後のデザートを食べながら、娘がぼくに言う。「このお店なくなっちゃうの?」と。このお店の”焼き芋ようかん”が娘は大好きだ。
 ぼくは答える、「そうだよ」。
 「なんで?」と彼女。なにかがなくなるとき、ぼくたちがいつも口にする言葉。なんでなんでなんでなんで????
 だからぼくは言った。「かたちがあるものはいつかはぜんぶなくなるんだよ」。
 娘は「ふーん」と言って少し黙ってから、元気よくこう言った。「でもまたほかのお店でも食べれるかー!」
 だからぼくは言ったんだ、「ムリだよ。もう食べれないよ」って。