日記

 一昨日と昨日の大阪での二日間連続ギグはとても楽しかった。逢えたみんなに、心からありがとう。バナナホールもnoonも大好きな場所です。またすぐこの場所で逢いたいね。

 二日間で女の子たちからいっぱいチョコレートをもらった。バレンタインデイ直前なのでね。チョコレートの袋、いっぱい下げて新幹線で帰る自分は、なんかモテる男になった気分だ。そう、いちばんモテたいガキの頃はぼくは、ゼンゼンモテなかったのだ。
 小学校時代を通して、その日にぼくがいちばん欲しいものは女の子からのチョコレートだった。男の子は全員そうだっただろうな。好きな娘からのがいいに決まってるが、わがままは言わない、だれでも良かった。義理チョコ以外なら。
 その日になるとクラスは静かにざわめき立つ。あの緊張感は、今思い返すと気持ちいい。ある日の小学校の教室にしかない柑橘系の匂いである。そしてぼくはそのときを待っている。友だちと他愛もない会話をしたりもするが、そんなことどうでもいいって分かってる。ぼくはじっと待っている。
 そしてそのうちすべての授業が終わる。そういえば、この時点ですでにチョコレートをいっぱい手にしている奴がかならずいた。まぁ、そういう奴はこの場合、敵なのであって。ぼくはここからが勝負だと信じてる。みんなが帰り支度を始めるころ、机やロッカーなどチョコレートをこっそり入れることができそうな場所を、ぼくはいちどさりげなく、このうえなくさりげなくチェックしてみる。そいつはまだない。この日ばかりは、みんな帰るのがちょっとだけ遅い気がする。でもみんな、ひとりふたりさんにんよにんと徐々に家路につく。ぼくはもういちど、それの入りそうな場所を確認する。ロッカー、靴箱、そして机の中までも。でもどこにも見あたらない。
 そんなことを繰り返しているうちに、人影はまばらになっていき、ぼくが教室に居残っている言い訳も少なくなってくる。2月14日。白い校舎にさしこむ夕陽。こんなにも美しくこんなにも残酷な光はなかった。
 こういうことを毎年繰り返して、そのうちぼくはロックンローラーになった。ちなみに、毎年のオチはお母さんがくれるチョコレート。これが、とんでもなく、切なかった。おとなだったら「あんな制度、なくていいのにねぇ。チョコレート会社の陰謀だよねぇ」とか偉そうなこと言うかもしれないけど、当時はただただこの素敵な日の夜をぼんやりと過ごすばかりだった。
 そのころぼくにははっきりとしたビジョンがあったから、ここで言っておく。
 学校が終わり、ひとりで教室をあとにするぼく。なにげなく靴箱を開け、靴を取り出す瞬間、ちいさな箱がひとつだけ床に落ちる。ぼくは光り輝くその箱がどうしても欲しかった。実現しなかったその情景は、ぼくのなかに鍵をかけられてずっとある。

 そういうわけで、この日記を全世界のモテない男たちに捧げます。