日記

 ついに今日、意を決して歯医者さんへ行く。虫歯の治療は、ここ3年間くらいの懸案事項だった。
 3年ほどまえのある日、右の奥歯にかぶせてあった銀歯がぽろりとはずれた。けっこう大きな虫歯の跡だったので、そこにはぽっかりと大きな穴があいた。そのとき歯医者さんに行きそびれたまま、3年がたってしまった。一日に一回は「歯医者に行かなきゃな」と思いつづける日々であった。これはだれにも言ってないことだけど、それ以来、ご飯を食べるときには右の歯では噛まないようにしている。これは健康にすごく悪い事ではないだろうか。かなりかっこわるいことなんじゃないか。いろんな思いから、人に言えなかったのだ。
 だから今朝、一気に咲き始めた桜並木を抜けて歯医者さんに行くぼくの気持ちは、最高に晴々しかった。
 いざ下北沢の歯医者に着くと、じりじりと緊張がにじり寄ってくる。いつもここに来るときは泣き叫ぶ娘を押さえつける役なのだ。名前が呼ばれ、診察台に横たわる。ずいぶん大きい(穴)ですねぇ、などと言われつつ、いちどレントゲンを撮る。結局、神経を抜いて虫歯を取り除くことに。
 神経を抜くのは初めてではない。麻酔をしてやるので、痛くはないはずだ。よろしくお願いします。ちくりと麻酔注射を打つ。数分経ち先生が虫歯を削り始める。痛い。麻酔が効いてないのだ。症状が悪化している場合、こういうこともあるようだ。さらに麻酔を打つ。効かない。さらに麻酔を打つ。効いてない。仕方なく強めの麻酔を打つ。ちょっと強めの打ちますねー。注射された直後、全身がぼーっとしてすごく気持ちよくなる。が、歯は痛い・・・。若い先生が「・・・どうしよう」と呟いたのが聴こえたとき、ぼくもいつも娘がしているようにイヤだイヤだイヤだ帰る帰る帰ると叫びながら暴れたくなった。
 最終的には神経が出るまで歯を削って、その後神経に直接麻酔を打つという、いちばん痛い治療をした。ぼくはすべてを我慢できた。もう、なんだってできる気がする。痛かったけど、ちょっと嬉しい。これからは毎週は医者さんに通おう。親知らず4本も、抜いたほうがいいと言われたことだし。それらのことを、診察台の前のモニターに映ったレントゲンに撮られた骸骨のぼくが見てた。
 帰り道、桜の花がきれいだった。