Your Song is Good!(今日だけは)

下北沢QUEでのライブ。
今月でリリースから10年を経た『若者たち』を記念して、その収録曲をアルバムの曲順でぜんぶうたった。

練習はしておいたものの、初めて人前でうたう曲もいくつかあり、ステージに立っても緊張しっぱなしであった。
1曲目は「いつもだれかに」。
歌い出しでいきなりトチり、中断。これは実はちょっと予測してた。渋谷クアトロでのデビューライブの1曲目もこの曲だったが、やっぱりミスって中断したからだ。極度の緊張のせいだろうか。

『若者たち』はぼくが23歳のときに、初めて人に聴いてもらおうと思って作ったアルバムだ。まだそんなふうなことをしたこともなかったし、音楽を作ることもすべて手探りだったから、そこには曖昧な意思と目的、緊張感と初々しさ、そして生まれたばかりの情熱が、詰まっている。

10の曲をなんとかうたい終えたぼくは、いくつかのことに気付いて嬉しかった。
まずはこれらの曲がすごく一生懸命作られていることが分かって、いい曲だなと思えたこと。完成度なんかなくったって、一生懸命作られた曲はだいたい名曲である。
そしてもうひとつは、10年経っても当時と同じように緊張しながら必死にプレイできたこと。テクニックが熟練していなかったことは、すこし悔しくもある。なぜならぼくはみんなをうっとりさせるようにやりたかったからだ。でも、未熟さのなかにある体力が、ぼくをいつも次の扉に連れて行ってくれるのかもしれない。

自分の原風景をこんなふうに追体験できたことは、とても気持ちのいいことだ。
これも十年前の自分からの贈り物だと素直に感謝して、今夜は素敵な気持ちで眠りたい。

会場にはひさびさに北沢夏音さんの姿があった。
『若者たち』がリリースされた当時、北沢さんは「約束」という曲をすごくほめてくれた。すごく励みになったし、そのことをずっと憶えていたのだけれど、同時にその曲はステージでは演奏されずにいた。なんとなく苦手な曲だとぼくが勝手に決めつけていたからだ。
だから彼がライブを聴きに来てくれるたびに、うたわれることのない「約束」のことが気になって、ちょっと申し訳なく思っていた。
その曲を今夜は初めてステージでうたい、そして初めて彼が言ってたとおりのいい曲だと感じた。

終演後、開口一番に彼はぼくにこう言った。
「『約束』、やっと聴けたよ」と。