日記

ある弾き語りライブの日。

アコギ片手にフラリと会場にはいり、リハーサルをほどほどにすませ、さっそくビールを飲みはじめる。
天気もいいし、最高。
35歳にしてビールが好きになってしまった。
いままではずうっとビールは最初にちょっとだけ、というのが常だったのになあ。

ん〜うまい。2杯、3杯とグラスを重ねるごとにいい気分になってゆく。
ああ、今日もいいライブやりたいなあ。。。なんて考えてるうちに、あたまがぼんやりとして、ぜんぶがうすい霧につつまれているかのように・・・。


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で、ふと気付くと、楽屋。
「おつかれさまでーす」とスタッフさんに言われ、はっと我に返る。

(・・・・・・『おつかれさま』って言った???
・・・・・あれ??・・・ライブおわってる???・・・・)

全然ライブやった記憶ないし、そんなわけないかと思うが、着てる服はうっすら汗ばんでいて・・・そう、まるでライブの後のように。

ぼくはあわててROSEのスタッフを呼ぶ。
「ねえ、ねえ」
慌ただしく片付けをしていたスタッフが(てことはやっぱりライブおわってるわぁ・・・)こちらにやって来る。
「なんですか?」
「・・・オレ、ライブやった?」
「ハハ。やりましたよ」
「・・・・・・ぜんっぜんおぼえてないんだけど・・・」
「マジっすか、やってましたよ」

ぼくは自分の顔から血の気が引いていくのを感じる。

「ちゃ、ちゃんとやってた?どんなかんじでやってた???」
「う〜ん、ちょっとユルかったっすかねぇ」
「えーーーー!!(ヤバい)え?え?え?どんなかんじ???」
「なんか、もごもご聴き取れないカンジのMCずーーっとやったりしてましたよ」
「マジで・・・ぜんぜん記憶ないわ・・」
「あと、やるって言った曲をなっかなかやらなかったりとか」
「(うわ〜。。。)・・・・・」


ヤバ。
まちがいなくすべての事柄が、ぼくが泥酔し前後不覚のままとんでもないライブを繰り広げたという可能性を指し示している。
いや、でも、こんなこと初めてじゃない。昔も酔っぱらってステージから落っこちそうになりながらライブやったりした経験もある。で、そのライブは「おもしろかった」とけっこう評判良かったのだし。だいじょぶだ、だいじょぶだ・・・。ぼくは自分に言い聞かせる。


「・・・・・・で、お客さん、どんなかんじだった?」
「ん〜〜〜・・・、若干ひきぎみでしたねぇ。・・じゃ、オレ、片づけ戻ります!」

ああ!!やってしまった。。。
マズい。マズすぎる!
あぁぁもうもうオレの歌手生命も終わりか。
どうしようどうしようどうしようどうしよう・・・・・。

すると背後から娘の声がする。
「パパ!パーーーパ!!」
ん!?
と、ふたたび我にかえる。
自室。



(・・・・・・夢か)



Tシャツはやはり、うっすらと汗ばんでいて。

「パーーパ!コンビニ連れてって!!」
娘がぼくの体を揺さぶる。
「わかったわかったよ」
と、蒲団から這い出す土曜日の昼下り。こころは晴々としている。

コンビニではビールは買わなかった。