街のあかり

sokabekeiichi_diary2007-07-14

アキ・カウリスマキ監督の『街のあかり』を渋谷で観た。
カウリスマキ監督の映画は初めて観る。かつてサイレントの作品(だったと思う)をレンタルして、ちょこっと観て返したことがあった。おもしろくなかったわけではなく、部屋で観る感じの映画じゃない気がして、集中力が最後まで辿り着かなかった。
今は映画館に数年に一度しか行かないぼくは、だから、「ちゃんとした」映画をほとんど観ないということになる。ドキュメンタリー映画なんかだったらDVDでもバンバン観る。しかし「ちゃんとした」映画はやはり映画館で観たい。
この『街のあかり』は観なきゃいけない感じがして、取材の合間をぬって雨の渋谷の映画館へすべり込んだ。

内容はあえて触れないし、監督言うところの<敗者三部作の完結編>という言葉も、この物語を観るのに余計な知識を植え付けるだけかもしれない。
結論を言おう。ぼくはもう本当に心からなんのためらいもなく「観て良かった」と思ったのだ。感動などと言う悠長な言葉にはほど遠い角度でぼくのハートを突き刺す、夢のような確かさがあった。
この映画があれば生きていける、という映画を何本知っているだろう。『街のあかり』はそんな映画だ。生涯のベストワンと言っても差し支えないかもしれない。
別に楽しくはない。スリリングでもない。脚本がおもしろいわけでもない。そもそもセリフもそんなにない。哲学的洞察に富んでいるわけでもない。知的でもスタイリッシュでも天才的でもない。この映画は、ただただ「本当」で、ひたすら美しく、完璧だ。生きてて良かったと思うと同時に、もっともっと生きたいと思わせられる。
これが映画なのかと思う反面、これしか映画じゃないとも強く思ってしまう。あとのものはぜんぶ「ドラマ」だと。

思い出すと泣けてくる。しかしその涙は、物語りによってもたらされたものではなく、自分の内からわき上がるものだ。
原題は『暗闇の中のあかり』。つまりはそういうことだ。

観てください。