荒野へ。


曽我部恵一BAND(ソカバン)のレコーディングが始まった。


まだスタジオに入って数日だが、三歩進んで二歩戻るような日々である。



充実しているというべきだろう。
つっかかって転げそうになりながらも、足は動いているという意味で。


バンドは素敵だ。
困難さを糧にしているという点で。


終着点はまだ見えるはずもなく、道しるべもないまま、とにかく音が響く方角をたよりに、このまま歩いてみようと思う。


      *      *      *      *


ブラッドサースティブッチャーズのドキュメンタリー映画kocorono』を観た。


今年の始めの公開時に映画館で観るつもりが、自分のツアーと重なって行けずじまいだった。
DVDになったのを見計らい、すぐさま手に取った。



淡々と飾ることなく我が道を行くブッチャーズの歩みを、淡々と飾ることなく映し出した、ドキュメンタリーだ。


よくある超人気ロックグループの映画みたいに、ハデなことが起こったりは特にしない。
うらやましいロックンロールライフも映らないし、女の子たちに囲まれたロックスターも登場しない。


ただ普通にブラッドサースティブッチャーズがバンドをやっているだけだ。
ずっと同じようにやり続けているだけだ。
バンドを続けて行く秘訣や、その先にある答えなども映りはしない。
そんなことだれも知らないのだから。



この映画が映し出すもの。
それは、ロックバンドの素敵さのすべてだ。
そのくらべるもののない美しさだ。


大ヒットのないロックバンドを続けて行くことは、たいへんそうだ。
観ればだれもがそう思うだろう。
お金の問題は、いつも背中にぴったりとくっついている死神のようだ。
そしてなにより、人間関係。
仲良しで、なんにも問題なく進んで行くバンドなど、いないはずだ。
それぞれに能力や人間性に差異がある。
複数で転がって行くなかで、そのことは強い足かせになるだろう。


この映画を観たら、だれもがそう思うだろう。
そして、バンドを続けている人は、みんなそのことを知っているだろう。



でもここにはそんな圧倒的な事実を越えて高らかに笑う生がある。



バンドは生き物だ。
そして生き物は生きているだけで、素晴らしいのだ。
どうしても生きなきゃならないのだ。
そしてその力は、お金や人間関係なんかが指一本さわれない場所で大音量で生きる音を奏でるのだ。



それがロックバンドの素敵さだ。




バンドをやりたい少年少女、いまもバンドを続けている少年少女は、絶対このフィルムを観るべきだ。


ブッチャーズが好きかどうかは、それほど関係ない。観れば好きになる。



そしてバンドは今日もどこかで、生々しいシンフォニーを奏でているだろう。