遠い渚
『マルグリット・デュラスのアガタ』という映画を観た。
故マルグリット・デュラスが監督した1981年の映画。
新宿の映画館のいちばん前の席で、ぼくは、ひとがだれもいなくなったシーズンオフのビーチに包まれていた。
『アガタ』がどういう作品か解説することはやめておくが、チラシには「極度な非商業性から永らく日本公開されなかった」と書かれている。
こう言われるとビビってしまうが、商業性・非商業性みたいな二元論から遠く離れた、個人的な出発点を持つ映画というだけだ。
海辺の風景。男と女のモノローグ。ただそれだけのこと。
そしてぼくはこの美しさに身を沈めるだけ。
この風景たちをぼくははっきり知っている。
遠い昔に見たことがあるような、記憶の印画紙に焼き付けられた風景。もしくは、いつもどんなときも心に波を作る、だれもいない独りっきりの海。