Perfect World!
渋谷で映画を観た。
『ライブテープ』。
なんの予備知識もなく入ったのだった。
映画に出てる前野健太という人の歌をちょこっとだけ聴いたことがあったし、監督である松江哲明氏の以前のドキュメンタリー作品も観たことがあった。
しかし、特別興味を惹かれたわけではなかった。実際、隣でやってたマラドーナのドキュメンタリーとどちらにしようか迷ったのだった。
ただぼくは『ライブテープ』を上映している映画館の方へ入ったのだ。
スクリーンには延々、吉祥寺の街をギターを弾き歌いながら歩く前野健太という人が映し出される。
完全なるドキュメンタリー。
最初は「どうかな?」と思った。
この人に対するぼくの評価は(失礼にもほどがあるが)「豊田道倫に影響を受けたリアリズム系のシンガーで、かつ歌声がきれいだからリアリズムにいまひとつ説得力がない」くらいのものであった。
しかし、映画が進むにつれ、ぼくはのっぴきならないほど目の前の世界に引き込まれて行った。もうどうしようもないほどに。
前野健太は「歌」を「うたって」いた。
カメラはそれだけを追い続けていた。
歌をうたう。
ただそれだけのことが、これほどまでに破壊的で、これほどまでにやさしくて、これほどまでに真実で、これほどまでに美しいと、ぼくは知っていたはずだ。
だけど、ずーーーーっと忘れていたように思う。
うまいとか曲がいいとかあたらしいアイディアだとか才能があるとかオリジナリティがどうとか、そういうことから百万光年離れた場所で、前野健太の歌は光り輝いていた。
そして、ぼくもよく知ってる吉祥寺の街もキラキラと輝かせていた。
本当の歌だと思った。
うたうってことは呼吸するのとおなじことで、それ以上のことになってはダメなんだな、と痛切に思った。
つまり生きるためにうたうということ。
だから、本当の歌はいつも、なんでもない歌なんだ。
映画の終盤、なんでもない歌はかる〜く奇跡を起こす。
遠い外国のポップスターがうたう歌じゃなく、ぼくらの街のさえない男がうたう歌こそがぼくらの日々を輝かせるのだ。
はっきり言って、嫉妬を超えて、めちゃくちゃ勉強になった。
掛け値なしの傑作。
これ以上の映画が今年観れると思えないからすでに心のナンバー1決定。
うたいたいと願う人は、絶対に観るべし。
ついにぼくらの世代に生まれた本物の最高級青春映画。
知識は必要ない。
映画館へ走れ。
映画『ライブテープ』オフィシャルサイト
http://www.spopro.net/livetape/